MENU

シリコンバレーのベンチャー・キャピタルの中でも、グーグル・ベンチャーズ(GV)はユニークな存在と言える。

まず、グーグル(現アルファベット)の企業内ベンチャー・キャピタルであるという点。シリコンバレーのベンチャー・キャピタルは歴史的には投資専門会社がほとんどで、今でも企業の投資部門は少数派だ。

それでいてGVは、後発でありながら今や有力な存在となり、また自社の事業には無関係な幅広いポートフォリオを持っている点も特異だろう。真に新しく、将来性のある技術やビジネスを見いだそうとしているようだ。

ちなみに、投資分野は消費者向けサービス、生命科学および医療、データおよびAI、企業向け、ロボットと分かれており、ウーバー、スラックなどよく知られたテクノロジー企業もあれば、ブルーボトル・コーヒーといった飲食業、メディウムなどのメディア企業も含まれている。

さて、GVはデザインに力を入れているのも、ユニークな点だ。この場合の「デザイン」というのは、GVのメンバーにデザイナーが数人含まれているということと、デザイン思考の方法論をGV流に改訂して、ポートフォリオ企業の製品開発に役立てているという意味である。この方法論が「デザイン・スプリント」だ。

デザイン・スプリントは、GVのデザイン・パートナーであるジェイク・ナップ氏から始まった。ナップ氏は、もともとグーグル内のデザイナーとしてGメールなどの開発に関わっていた。時間の使い方に意識的な同氏は、社内でデザイン思考による開発を実験してみようと思い立つ。「デザイン思考」あるいは「デザイン・シンキング」と呼ばれる開発方法は、デザイン会社IDEOやスタンフォード大学のd.スクールで確立されたもの。だが、広く受け入れられているその方法を、グーグル流に変える必要を感じたという。

通常のデザイン思考では、対象のユーザーを観察し、問題を特定し、ブレーンストーミングを行い、プロトタイプを作り、ユーザー・テストを行って、また最初に戻る、という流れを繰り返す。ところが、ナップ氏は次の点で改訂の必要性を感じた。

ひとつは、ブレーンストーミング。ナップ氏は、優れたアイデアはみんなの中からではなく、個人から出てくることが多いと見た。そして、みんなでグレーンストーミングをする代わりに、個々人がアイデアを書き出すという作業に変えた。

また、問題を特定する部分は多数決や全員の合意では、特異なアイデア、大胆なアイデアは敬遠されがちになることにも気づいた。そこで、デザイン・スプリントでは、たったひとつのアイデアを選ぶのではなく、紙に書き出されたアイデアの中から、いいと思うところを参加者みんながシールを付けていき、後に絞り込むという方法を採っている。

さらに、全体の時間が違う。デザイン・スプリントでは何と25日で作業を終えるというスピーディーぶりだ。それも、ナップ氏が「締め切りに迫られた方が集中していいアイデアが出る」ということに気づいたからだという。

このようにしてGV流になったデザイン・スプリントは、次のような6段階の流れで行われる。

まず、ユーザーのニーズやテクノロジーの可能性を「理解する」第1段階。ここでは、関係者の話を聞いたり、競合の製品を比べたりする。第2段階は取り組むアプローチを「定義」する。最終的に何を目指すのかを考えるために、ユーザーが利用に慣れていくユーザー・ジャーニーを想定したり、「使いやすい」「楽しい」といったデザインの方針を考えたりする。

第3段階ではいろいろな方法を「探索する」。ここでは、アイデアを短時間にたくさん出したり、反対にひとつのアイデアに集中して取り組んだりといった方法を採りながら、アイデアを生む段階だ。そこからいいアイデアを「選定する」のが次の第4段階。声に出さずに思考したり、特定の視点を想定して、アイデアの有効性を検討したりする。

第5段階で「プロトタイプを作る」。モックアップ、デモ、ビデオなど、いろいろなかたちがあり得るだろう。そして最後の第6段階が、方法の「立証」だ。ユーザー・テスト、関係者からのフィードバックなどでアイデアの有効性を確認するという作業である。

ナップ氏は、「デザイン・スプリント」の方法論で、GVが関わるスタートアップで数々の開発を支援してきた。GVの同僚との共著で『デザイン・スプリント』という本を出した上、その基本についてはウェブでも公開している。

デザイン思考を自分たちに合った方法に変えていくこと、これもまたデザインのひとつの作業と言える。

Noriko Takiguchi
Noriko Takiguchi

シリコンバレーで有名なデザイナーのひとりが、ジョン前田氏だ。前田氏は、もともとソフトウェア・エンジニアの教育を受けたが、後にグラフィック・デザイナーになり、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボの教授を務めた後、ロード・アイランド・スクール・オブ・デザイン(RISD)の学長に就任した。ここまでは、デザイナーとしても輝かしい職歴だが、その後の転身には誰もが驚いた。シリコンバレーのベンチャー・キャピタリストになったのだ。

2014年に、同氏がシリコンバレーでも有数のベンチャー・キャピタル会社として知られるKPCB(クライナー・パーキンズ・コーフィールド・バイヤーズ)のデザイナー・パートナーとして就任したことは、テクノロジー業界でのデザインの重要性が無視できなくなってきたことを示していた。すでにテクノロジー企業としてアップルはデザインの面でも抜き出ていたが、それ以外でもスマートフォンのデザイン性、アプリの美しさや使いやすさなど、デザインがテクノロジーの中で占める度合いが非常に大きくなっていたのだ。

KPCBに移った後、前田氏はポートフォリオ企業にデザインに関するアドバイスを行ったり、デザイナーで起業できる人材を探したりといった仕事を行ってきたが、同時にあるプロジェクトをスタートさせた。それは『Design in Tech』というリサーチである。『Design in Tech』は、現在のテクノロジー業界におけるデザインの重要性や意味を、デザイナーの数、デザイン会社の買収数、デザイナーが創業したスタートアップ数などで示し、さらに「デザイン」のあり方がどう変化しているのか、それによってデザイン教育はどう変化すべきかを分析する。

昨年第1回レポートが発表され、先頃第2回の2016年度版が公開されている。そこからいくつかのポイントを拾ってみよう。まず、デザイナーはテクノロジー企業に多く雇われるだけではなく、前田氏自身のようにベンチャー・キャピタル会社でデザイン・パートナーや投資パートナーとして在籍するケースが多くなった。すでに30人を超えるデザイナーが投資側にいる。

従来のデザインと現在のデザインの違いについては、こんな比較を行っている。対象とするユーザー(従来は数100万人vs.現在は最大数億人)、製品完成までの時間(数週間から数ヶ月vs.インターネットで断続的に改訂)、完璧度(達成できるvs.常に進化し続ける)、デザイナーの自信度(絶対的vs.高いがテストやリサーチの分析にオープンに対処する)などだ。デザイナーとして求められる資質が大きく変化しているのが、これでわかる。

デザイナーにとって、プログラミングを理解するのが必要になったということも、デザイナーへのアンケートの結果から伝えている。370人のデザイナーに尋ねたところ、「必要」と答えたのは93.5%にも上った。プログラミングができることで、ただの上辺だけのデザインではなく、ユーザー・インターフェイスやエクスペリエンスといった深みのある部分までデザインの考え方を適用することができるからだ。

また、従来のデザインは、デザイン思考としてツールになった後、今や無数のユーザーにリアルタイムでデザインを行う「コンピューテーショナル・デザイン」が登場しているという。さらに、デザインはユーザーに対するシンパシー(共感)や多様性を内包したものが評価されるという。これも、これまでの「カッコいいデザイン」といった単純な軸が通用しなくなることを示唆するものと言える。

同じ「デザイン」ということばが使われているが、その中味や方法論、位置づけは急速に変化している。デザイナーもそこに敏感でなければ、ユーザーに通じるデザインができなくなっているのだ。『Design in Tech』レポートのメッセージは無視できない。

design-in-tech-report-2016-16-1024.jpg


design-in-tech-report-2016-43-1024.jpg

引用:http://www.kpcb.com/blog/design-in-tech-report-2016

Noriko Takiguchi
Noriko Takiguchi

こんにちは、mctの佐藤です。

先日、510日、Forrester Research社のRyan Hart氏よりmctスタッフがプライベートレクチャーを受けました。テーマは3つ。「カスタマーエクスペリエンスと感情」「未来を記述するカスタマージャーニー」「デザイン思考のこれから」について。本レポートでは、一つ目のテーマを中心にご紹介したいと思います。

カスタマーエクスペリエンス。日本語で言えば顧客経験ということですが、Forrester Research社の考える3大要素、「機能」「使い勝手」「感情」の中で、顧客のロイヤルティを高めるために最も影響度の高いものが「感情」。「感情」面で成功している企業はブランドチェンジされるリスクが1/2、アップセルの確率が5倍、他者にお勧めしてくれる確率が2倍と統計が出ているそうです。レクチャーでは、そのような「感情」面で成功するためのティップスを具体的に教わりました。

Forrester_160510.jpegのサムネール画像

感情を取り扱う上で留意すべきポイントが3つ語られます。

 A:ポジティブな経験より、ネガティブな経験のほうが記憶に残る

 B:記憶に残るのは途中の盛り上がりと、最後の経験のみ

 C:人は、自分の感情を十分に認知・説明できない

 ※AとBは行動経済学系のお話、Cは潜在意識系のお話ですね(佐藤・注)。

 

A(ポジティブな経験より、ネガティブな経験のほうが記憶に残る)ですが、これは、各ステップごとにしっかりとユーザの行動をデザインし、いずれの瞬間にも悪い体験をさせないよう慎重になることが重要と説明されました。特に、顧客の一覧の行動の流れ(=カスタマージャーニー)を顧客の感情も含んだ状態で作成し、施策を考えることが大切。英語では"Emotional Journey"と語られていました。

デルタ航空では欠航の告知メール配布の直後に顧客から電話がかかってきた場合、「ご用件は何ですか?」ではなく、「欠航のお知らせの件でしょうか?」と対応をスタートするようです。同社のアトランタ・オペレーションセンターでは、メカニックスタッフと(空港で取り残された顧客向けの)ホテル予約担当者の席が近く、組織的に顧客へのシームレスな連携対応を実現しているようです。

 

B(記憶に残るのは途中の盛り上がりと、最後の経験のみ)は、悪い経験を経た顧客には、その後に素敵な体験を提供する、という対処法があるようです。上述のデルタ航空では窓側でも通路側でもない"真ん中の席"に特定のクラス以上の顧客が座った場合、翌週の月曜日にお詫びとして同顧客に500ポイント追加進呈するそうです。"Middle Seat Mondays"というプログラム名らしいですが、満足いただけない体験をさせてしまった顧客には最後の最後に良い記憶を残す。

また、スウェーデンでのお話。献血した血液が使用された際、献血した本人に、どのような患者に自分の血が使われたかが連絡されるプログラムもあるようです。この場合も、献血という一連の経験の最後に、ポジティブに心が動かされる経験が配置されている。

 

C(人は、自分の感情を知覚・説明できない)に関しては、mctがよくご提供している絵や写真を使った投影法系インタビュー手法や、広い意味でのニューロマーケティング系の手法が紹介されていました。本人が語れない感情は、少し手の込んだ手段で聞き出す必要があるということ。

 

以上、カスタマーエクスペリエンスにおいて感情面をポジティブに持っていきたい場合、まずはA~Cを押さえることからスタートするということで、非常に分かりやすい整理がなされたと思います。貴社においてもこのような規律あるプロセスを導入し、むやみやたらなアイデア出し・施策立案等を行わない、効率的なプロジェクト進行を図られてはいかがでしょうか。

 

最後に、同日に話があった他のテーマについても簡単にお話します。「未来を記述するカスタマージャーニー」は、現在のカスタマージャーニーを描いてからアイデアを追加し、将来的な理想のカスタマージャーニーを描いていく手法。「デザイン思考のこれから」については、最近1年ほどのデザイン思考のトレンドが語られ、感情を取り扱うテクノロジーの向上による影響などが紹介されていました。

以上、詳しくお知りになりたい方は、どうぞ、mctのほうまでお問い合わせくださいませ。

Takeshi Sato
Takeshi Sato

株式会社mct
ストラテジスト

12 April

最近、テクノロジー関係者の間で注目のことばは「デザイン思考」である。
そんなことを読むと、デザイナーにとっては古い話題に聞こえるかもしれない。デザイン業界では、デザイン思考の考え方がかなり以前から知られていたからだ。

だが、現在のデザイン思考は当時デザイナーらが顧客のためにやっていたものとは少々異なったものになっている。それを象徴するのが、IBMが全社規模でデザイン思考を取り入れ始めたという事実だろう。
IBMはデザイン中心的な企業になるために、社内に大規模なデザイン組織を作ることを決定し、それに1億ドルの予算を割り当てている。2013年末にはデザイン・スタジオをテキサス州に作り、全社で1000人ものデザイナーを新たに採用することにした。
もちろんIBMはこれまでもハードウェア製品のデザインでは有名だ。また、すっきりしたサイトをデザインするということでも、デザインに意識的な企業というイメージはすでにあった。
だが、今回の転換は古いエンタープライズ・ビジネスをクラウド、モバイル、ソーシャル・メディア、AI(人工知能)、セキュリティーといった今日的なものに移行させ、こうした分野での成長を加速化するためにどうしてもデザイン思考が必要だとみなした結果だという。

これら分野での技術の発展や市場の変化は非常に速い。的確な製品やサービスを提供するために、顧客が必要とするものを身を寄せて感じ取り、プロトタイプを何度も作り直してテストするという、デザイン思考の方法論がその核になるというわけだ。同社では、デザイン思考のアプローチを行き渡らせるために、上はCEOから始まって上級レベルの重役、製品部門のマネージャーらまで訓練を受けたという。

IBMのデザイン思考は、顧客企業向けと同社のサービス開発の両方で使われている。
顧客向けでは、たとえばビデオゲームやエレクトロニクス製品の小売チェーンの店員のために、タブレット用の接客ソフトを開発した。その中では、客がこれまでどんなゲームをダウンロードしたか、どんな製品を買ったかといったことから、顧客データに基づいて、クーポンを提供したり下取りを提案したりができるようになっている。同社のサービスでは、クラウド・アプリケーション用の開発プラットフォームのブルーミックスを、この手法で1年という短期間で作り上げた。
IBMが採用するデザイン思考は、基本的にはユーザーへの共鳴、課題の特定、思索、そしてプロトタイプによるテストを繰り返すループであるという点は変わらないが、多くの拠点に散らばった大人数のチームのためのものとして独自の改良も加えられている。たとえば、多領域、多分野の専門家からなるチームを構成して複雑な問題に取り組む際に役に立つ3つの「キー」も考案している。

キーのひとつは「ヒル(丘)」で、これはデザインに留まらず、顧客やユーザーに感じられる具体的な結果に対して共通意識を持つことを意味する。2つめのキーは「プレイバック」で、これはデザイン思考の作業を共にしていない関係者も含めて、プロジェクトの進行を確認し合う機会のこと。3つめのキーは「ユーザーをスポンサーすること」で、これは実際のユーザーを招いてデザイン思考に参加してもらい、彼らにも観察する、思索する、プロトタイプを作るといったことをやってもらうことだ。そうして、彼らの目からデザイン思考を検証するためである。

IBMは、このデザイン思考のコンセプトをウェブサイトでも公開しており、そこで同社のきめ細かなアプローチも感じられる。たとえば、上記のユーザーをスポンサーして招いた場合、その人を所属の会社名で捉えるのではなく、あくまでもその会社で特定の仕事を行う個人として捉えることが重要だという注意書きまで加えている。デザイン思考では、抽象的な企業ではなく、生きた人間の生の経験こそが目を向けるべき対象だからだ。

そもそも、こうした方法論を公開していること自体に、IBMの変貌ぶりを感じないだろうか。「もはやビジネス戦略とユーザー・エクスペリエンスのデザインの間には、はっきりし区別がない」と、あるIBMの重役が語っているが、まさにデザイン思考はこちらと相手を同調させる方法でもあるのだ。

Noriko Takiguchi
Noriko Takiguchi

Back to Top